サイフォンはおかげさまで10周年を迎えました

サイフォン合同会社はおかげさまで、2019年7月22日に創立から10周年を迎えることができました。ここまで歩んでこれたのも、弊社にお声がけくださる皆さま、お手伝いくださっている皆さまとのご縁の賜物と、心から感謝申し上げます。

創業当時からすると、世の中は10年で大きく変わりました。創業した当時はまだiPhoneが出たばかりで、ゴールドラッシュに世間が湧いていました。Twitterが日本語化されたのは前年の2008年のことです。最初私たちはiPhoneアプリを作ることから始めました。

2011年にはあの東日本大震災もありました。なにかできることはないかと思い、メンバー交代交代で始終英語で情報を発信していました。原発が爆発する映像をみながら、「これは死ぬのかなぁ」と覚悟したのもよく覚えています。

計画停電を受けて、TepcoMeterというアプリを作ったりもしました。

あるいはJAniCA Watchというアニメーターさん向けのアプリをJAniCAさんと作ったりもしました。ちょうど昨日、海外のアニメスタジオさんから、なんとか復活できないか?というコメントをいただきました。とても嬉しく思います。

JAniCA Watch

ここにひとつひとつのプロダクトやご依頼されたお仕事をすべて記載することはできませんが、失敗も成功も、私たちはすべて覚えています。偶然、10年前にお仕事をご一緒した方から先日久しぶりにお声がけをいただき、10年ぶりにお仕事をご一緒することになったのですが、そのときの気持ちは言葉に言い表せません。他にも個別にお礼を申し上げたい方が、たくさんいます。この場を借りてまずは御礼申し上げます。

2009年から今まで、いろいろと日本は大変なことがありました。私たちにも大変な時期がたくさんあって、後悔もたくさんしましたし、いろいろな方にご迷惑もおかけしました。私たちの力及ばず、離れていったメンバーもたくさんいます。会社を続けるのが大変なのは傷つき、そして傷つけ続けるからなのだと思います。捉え方はどうあれ、会社は人の人生を捻じ曲げます。去っていったみんなは、ぼろぼろに傷ついたはずです。みんな、次の道を歩めているでしょうか。

そして今もサイフォンに関わり、あるいはサイフォンで働いてくださっている皆さん、改めてありがとうございます。皆さんなしに、この会社はありません。小さな会社にとっての武器は、人そのものです。これからもよろしくお願いします。

サイフォンはどこへ向かってきたのか、これからどこへ向かうのか

会社を始めたときは、大きなことをしたい、という憧れもやっぱりありました。でも結局のところ、そういうベンチャーを目指すような選択肢を私たちは選択できずにきました。サイフォンは小さな会社のままです。いろいろな経験をして私たちは「この会社はどこを目指すのか」よりも先に、「どんな人がどうやって働く会社にするのか」を優先して問い続けてきました。

だから、サイフォンはなにをしている会社なのか、まだよく分かっていません。きちんと定義できれば格好いいんでしょうけれど、私たちはまだ道半ばで、自分たちがどこへ進むのかはよく分かりません。でも、だけれども、大事にしているものはある会社です。創業したとき、私たちはこんなビジョンを書きました。

サイフォンのビジョン

デザインは、私たちの記憶を浮き上がらせるための仕掛けです。二足歩行を始めて以来、人は常に何かをデザインし続けてきました。手を使って創り出した道具が行為を記憶し、さらにそれを使う未来の人々の行為を規定していく。私たちの社会と文化は、その多様な記憶の集合が織りなす環境を拠りどころに成立してきました。

デザインとは、そうした人と文化の記憶を掘り起こし、磨いていく作業です。20世紀、大量生産・大量消費社会の到来の中で追求されたのは、デザインのイデアともいうべき、非常に近代的な思想としての西洋的な普遍性でした。

しかし今再び、私たちは人や文化の記憶に秘められた力強さを自覚しつつあります。グローバル化・多極化が進む21世紀に、私たちは、それぞれの文化の固有性を排除するのではなく織り込んだ上で、人類に共通の記憶を織りなしていけるのか、という課題に迫られているのです。

サイフォンは以上の認識を踏まえ、私たちの日常に組み入れられたあらゆる記憶の再発見とデザインを通じ、世界の未来に貢献していく「セカイデザインカンパニー」です。

このビジョンに関しては、ぶれることがなかったのではないかと思います。ひとつだけ私たちが誇っても良いところです。これからも、このビジョンにしっかりと根ざしながら、デザインを武器に社会と関わり続けていきたいと私たちは思っています。ここでいうデザインとは、サービスデザインでもなく、UXでもなく、HCDでもありません。人の営為を磨き続けることです。

ジェラール・ジュネットが生み出した言葉に、パラテクストという言葉があります。テクストと読者をつなげるもの、あるいはテクストを決定づけるもの、間テクスト性を保証するもの。表紙や帯、作者名や献辞。装飾や質感。私たちはふだん、小説といえば本文(物語)そのものに注目しがちです。でも、今挙げたようなパラテクストは、物語にじわじわと影響を与えているのです。そういった、一見本筋にはみえないものにこそ、私たちの文化は支えられています。眼の前に見えないものにこそ、私たちは着目し続けます。不可視の真理を見つけ、守り育てることが、私たちがやりたいことです。

最後に。まだ見ぬ仲間たちや、未来のクライアントの皆さまとの出会いもまた、楽しみのひとつです。もしこのビジョンに共感したら、ぜひ、サイフォンに遊びにきてください。

皆さま、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

サイフォン合同会社
代表社員 大橋 正司